桃太郎ジーンズがこだわる旧式力織機は、桃太郎ジーンズ岡山中畦店ファクトリーショップの敷地内工場で今も動いている。
カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!…激しい音がリズムを奏で、工場内の騒音は相当なものだ。事前に騒々しいと聞いていたが、想像を超える激しい音だった。しかしこの音こそ旧式力織機ならではの音なのだ。
織機のかたわらではジーンズ姿の職人が、少しずつ織あがっていくデニム地に手を当てて立っていた。
工場内のいずれの織機も古くから使われているため壊れやすい。職人は織機の調子を敏感に察知し微調整しながら、織機の調子を整えていたのだろう。
豊田(TOYODA)製 旧式力織機GL-9
桃太郎ジーンズ岡山中畦店ファクトリーショップの工場でデニム生地を織りあげていたのは豊田(TOYODA)製GL-9という旧式力織機だ。
G型豊田自動織機は1942年に豊田佐吉が世界初となる無停止杼換式(ひがえしき)自動織機として完成させたもの。完全に自動で生地を織ることができたので、生産性が従来の織機の15-20倍になった。
また、G型豊田自動織機は
自働杼換装置や緯糸切断自動停止装置をはじめ自働化・保護・安全等の24に及ぶ特許があり、それらは不良品を未然に防ぐ装置り織物の品質も大幅に向上させた
ともいうから、まさに歴史の転換点の役目を果たした織機といえよう(参考+引用元:株式会社豊田自動織機 始祖 豊田佐吉翁:2ページ-先駆者たちの大地)。
旧式力織機は圧倒的に生地の生産スピードが遅い
旧式力織機はシャトルと呼ばれる舟型の器を使って緯糸を送っていくのが特徴だ。
工場のカーン!カーン!という固い木を打ち付ける音はシャトルが織機を左右に移動したときに生じる音だったのだ。
シャトルは1分間に約140~160回往復する。手織りと比べると格段に早くなったであろうが、機械の進歩により、いまでは織りスピードの遅い(=生産性に乏しい)織機となってしまった。
旧式力織機では1時間に最大で5mしかデニム生地を織られない。たったジーンズ2本分。現在の織機なら少なくともその4倍は織れる。
旧式力織機では幅が29インチまでしか織られない。それではジーンズ1本分の幅にしかならない。
高度成長期の生産性重視の日本にあって旧式力織機が姿を消していった歴史は容易に想像がつく。
旧式力織機だからこそ独自のデニムが織れる
「メンテナンスに職人がはりつき、織れる生地の量も少ない。なのになぜ旧式力織機なのですか?」デニムファンにとっては愚問であろう質問をしてみた。
旧式力織機のデニムにこだわる理由の一つは生地に使える糸の太さだという。太い糸は桃太郎ジーンズの高オンスデニム生地に不可欠だ。しかし現在主流の革新織機はシャトルの代わりに風圧や水で緯糸を送るため、太い糸は使えないのだ。
また高速の織機では経糸を強くはるため出来上がったデニム地の表面が平らになりすぎるきらいがある。これに対し旧式力織機なら職人が織りスピードをコントロールしながらゆったりしたテンションでデニム地を織ることができる。
ゆっくり織り上げたデニム生地には綿糸本来の凹凸が残りいい意味でムラができる。これこそがデニムの風合いとなる。生産性重視ではなく、綿糸という素材やプレミアムジーンズたる品質を優先した適度なテンションで織るからこそ、履くほどに柔らで絶妙なタテ落ちを生むデニム生地が生み出されるのだと感じた。
もし量産タイプのデニムジーンズを履いているなら、ぜひ桃太郎ジーンズのデニム表面とさわり比べてみてほしい。
感じることでますますデニムが面白くなっていくはずだ。